おしでつんぼの人間のふりをしようと考えたんだ

わたしの祖母のような祖母を持った場合、真のアメリカ人になれるものかどうか、つまり、人生の眼目は幸福の追求にあると信じられるものかどうか、わたしには確信が持てない。祖母の苦難と、長命への拒否反応が強調する教訓はこういうことだった。老年というのは、若いころの多様な楽しみが続くものではなく、もっと些細で単純な喜びでさえもが人生から徐々に奪われていく長い試練なのだ。誰もが絶望と戦うけれども、最後に勝つのはいつも絶望のほうだ。そうに違いない。それこそがわたしたちにさよならをいわせるものなのだ。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（Middlesex / Jeffrey Eugenides）