「死ねば、助かるのに……」
それは、南郷の背後のソファに座っている
あの少年から発せられた言葉。少年は南郷の
後ろにいるので、当然、彼のテは見えている。
「……麻雀、分かるのか?」
「いや、全然……ただ、今あんたの背中の気配
が死んでいた。勝とうという強さがない。た
だ助かろうとして、怯えているんだ」
少年の言葉に、安全な牌でなく危険牌を打つ
南郷。結果、南郷は逆転を収めた。
休憩中に南郷は、少年に言った。
「俺の代わりに打ってくれないか?」
「……?」
少年は、麻雀を知らないと言った。つまり素
人である。ヤクザ相手の「闇麻雀」におい
て、これは無謀ともいえる暴挙だ。しかし、
南郷は感じ取っていたのだ。
この少年が持っている気配……
「あんたは、死線を越えてきた……」
今、まさに死線をさ迷っている南郷だからこ
そ感じ取ることが出来たのかもしれない、こ
の少年の持つオーラ。
「あんたなら、越えられる。この死線……」
南郷は、己の命運を、素人同然のこの少年に
賭けたのだ。勝つ(生きる)ために……。
「少年、名前は?」
しばらくの間の後、少年は答えた。
「アカギ……赤木しげる」
彼こそが、後に「裏の麻雀界」を震撼させる
ことになる
「伝説の代打ち・赤木しげる」であった。