道徳の教科書、『心のノート』の所有数がその人の道徳心の高さになる時代、道徳モヒカンによる残虐な『ノート狩り』に対抗する為、道徳弱者達は、『心のノート』ならぬ『心のノート』たる『心のnote』を開発したのだった。 「ヒャァァァッハー! 俺様の道徳心でテメェのドタマかち割ってやるぜえええええ!」 それは、心のノートと言うにはあまりにも分厚く、重く、そしてあまりに大雑把すぎた。 心のノートを5、6冊重ねた鈍器、道徳モヒカン共が好んで使う『心の辞典』である。 背丈2メートルはあろう道徳モヒカンは、そんな鈍器を己より2回りは小さいであろう男に振り下ろしている。 力任せにそんなモノを振り下ろされれば、男の頭蓋が非道徳的に弾けるのは想像に難くなかった。 ドズン! 辺りに低く重い音が響く。 手のひらに鈍く伝わる確かな手応えに、道徳モヒカンはほくそ笑んだ。 —————————その時だった。 「道徳力6……今までこんなザコ相手に逃げ回っていたとはな……」 驚愕! そこには頭を粉々にされている筈のあの男が平然と直立しているではないか! 「む、無傷だと……!?」 己の理解の及ばない現象に、道徳モヒカンは足を引いた。 そして男をよく見直すと、彼は持っていたのだ、『心のノート』を!!! 「そのスマートフォン……もしや『電子書籍版』か!」 電子書籍版心のノート、物理的な本ではなく、電子データとして販売されている心のノートだ。 しかし道徳モヒカンは知っている、複雑なデータを内包するスマートフォンに入っている心のノートは純正の心のノートと比べるとどうしても『道徳力』が落ちるのだ。 電子書籍程度の道徳力ではとても『心の辞典』を防ぎきる事は出来ない。 「て、テメェ! いったいどんなイカサマを!」 道徳モヒカンは道徳の戦士、目の前でイカサマなどという非道徳的行為をされて怒らない筈はなかった。 「ふっ、イカサマではない———これを見ろ!」 男は自らのスマートフォンを道徳モヒカンに掲げて見せた。 刻まれたるは文章投稿サイト、noteのアプリ。 「note……のーと……ノート……まさか!?」 「そう、これが俺の『心のnote』だ!」 刹那、スマートフォンが強烈な光を放つ! 閃光は辺りの景色も闇もを全て白く染め上げ、そして轟音を上げて終わる。 道徳奥義の発動である。 「俺の心のnoteの道徳力を解放した、お前如きでは俺のnoteの道徳を受け止めきれまい……」 過剰な道徳を脳に受けた道徳モヒカンは失神、男の前に力無く倒れた。 ここは道徳の教科書、『心のノート』の所有数がその人の道徳心の高さになる時代。 故に人類は問われる事となる、真の道徳とは何なのかを—————————
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